松下幸子

今や私たちの食生活に欠かせないハクサイ、タマネギ、キャベツ、ピーマン、レタス、アスパラなどは、明治以降に外国から持ち込まれたもので、江戸時代にはありませんでした。 明治以降栽培技術が飛躍的に進歩しましたし、品種改良も繰り返し行なわれましたから、野菜自体の味、形、色等が江戸時代とは大分違ってきているのです。それだけではありません。例えば今、お店に並んでいるニンジンには、たいがい葉が付いていませんよね? ところが、1697年に書かれた「本朝食鑑」を見ると、ニンジンは「人参菜」と記されており、8、9月には葉や茎を茹でて食べ、冬から春にかけては根の部分を食べると書いてあるのです。品種自体の違いもありますが、葉の部分を出荷時に切り取ってしまう現在とは、食べ方、食べる部分も随分違いますでしょ? 日本料理は目で食べるものといいますでしょ? もちろん、江戸時代の写真は残っていないのですが、錦絵などを見ると、当時も随分彩りに気を使っていることが分ります。また、料理書の中に記されている心得にも、彩りに気を配るようにとあるのです。 再現する際には、江戸時代と同じ作り方で料理していますが、味は現代に合せています。というのも、江戸時代のまま再現したら、恐らく皆さん、塩辛くておいしく召し上がれないでしょう。江戸時代の人々は、電車や車なんてありませんから、とにかく歩く量が現在の人とは比較にならない程多かったわけで、必要な塩分量も、それだけ江戸時代の人の方が多かったのです。